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小さいおうち [どうでもいいこと]

老女の回想記、だとばかり思っていた。

「墓場まで持って行く」と 言っているそばから
実名を挙げて 次から次へと 昔話を掘り返していく、
タキさん。

イヤな人だな、と 思った。


そう思いつつも、指は、どんどん
ページをめくっていく。


ときおり挟みこまれる 大甥との やりとりが、
邪魔だ。

きちんとした構成にして
いっそのこと フィクションとして 書いてしまえば、
もっと おもしろく、読みやすく
なっただろうに…

だって、
読み進めるうちに湧き起こってきた いくつもの胸騒ぎは、
たいてい その後、
想像していた通りの展開となっているんだもの。

長い人生の中から 記憶に残っている部分のみを
書き記しているとはいえ、
ドラマや映画にしても良いくらい
読み応えのある、「女の一生」だ。

場面、場面の情景が、目に浮かぶ。


いつのまにか わたしは、
タキさんの皮を被って そこに立ち、
タキさんの眼を通して
人々の動向を 眺めていた。

心に溜まっていく澱を、もてあましながら。


第6章の半ばあたりを 過ぎたとき、
わたしは、ふと 扉を見直した。

もしや、これは…?


そこにある 著者名は、
「タキ」ではなかった。


小さいおうち (文春文庫) [ 中島 京子 ]









なーんだ。
フィクションだったのかっ!?

すっかり 騙された。

いやいや、はなから わたしが 勝手に
「ある女中の 自己満足的な回想録」
と思い込んでいただけなのだが。


どうりで、冒頭に出てくる
「タキおばあちゃんのスーパー家事ハンドブック」
を検索してみても、出てこないわけだ。

野菜の選び方や 家事のコツ、わたしも知りたくて、
購入しようとしていたのに。

もう絶版なのかな、図書館に 残っていないかな、
と、探す気満々だったのに。



裏表紙に記された 紹介文には
「最終章が深い余韻を残す」とあるが、
わたしは 逆に、この最終章で、醒めてしまった。

あの人この人の その後、そして 意外な事実も
明かされたものの、
要らないものを 押しつけられたような
納得のいかない感じが、残った。

起点と終点を むりやりつないだ、
いびつな、丸。

「これ、欲しかったんでしょう?」と
得意気に 突きつけられても、
なんか、なあ…

言葉に、詰まる。


んーー。
唸りながら 見返しを 斜め読みして、
気づいた。

あらま、直木賞受賞作品でしたか。
それは、それは。

失礼いたしました。


赤い三角屋根の洋館。
鎌倉の、鮮やかな空。

美しき 時子奥様の姿に、
なぜか 若き日の木村佳乃さんが
重なった。





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